ポチがうちに来たのは、私がまだ独身で、ひとり暮らしを始めたばかりのころでした。

小さな雑種の子犬で、保護施設から引き取ったとき、怯えて私の手からも逃げていたのを覚えています。
それでも、少しずつ心を開いてくれて、いつの間にか、私の生活はポチ中心になっていきました。
朝は散歩から始まり、夜は同じ布団で眠る日々。
落ち込んだときはそっと寄り添ってくれて、うれしい日には一緒に飛び跳ねて喜んでくれました。
ポチは、私の家族であり、親友であり、時に自分自身よりも大切な存在でした。
そんなポチも、15歳を過ぎた頃から体調を崩し始めました。
食事の量が減り、歩くスピードもゆっくりに。
でも、私の目を見つめるその瞳だけは、昔のままでした。
最期の日、私はずっとポチのそばにいました。
呼吸がだんだん弱くなる中で、ポチは小さく尻尾を一度だけ振って、私の手に顔をすり寄せてきて──
静かに、旅立ちました。
涙は止まらず、毎日ポチの名前を呼んでしまいました。
「おかえり」が口癖だった私は、誰もいない玄関に向かって何度も声をかけていました。
でもある日、散歩道を歩いていると、風がふわっと吹いて、ポチの首輪の鈴のような音が聞こえた気がしたんです。
思わず振り返ると、そこには誰もいませんでした。
けれど、心の中に小さな温もりが灯ったのを感じました。
「ああ、ポチはまだ私のそばにいてくれるんだな」
そう思えた瞬間、ようやく空を見上げることができました。
いまでも、ポチの写真に「行ってきます」「ただいま」と声をかけています。
姿は見えなくても、確かに心でつながっていると感じられるからです。
そして私は願っています。
同じように、大切な存在を見送った誰かが、「自分だけじゃない」と感じてくれるように。
悲しみの先に、ぬくもりがあることを、知ってもらえるように。
ポチ、ありがとう。
また会おうね。


