「この子にします」
そう言って抱き上げたとき、小さなうさぎは驚いたような顔をして、私の胸にそっと顔をうずめました。
名前は「ミルク」。真っ白で、ほんのりピンクの耳。牛乳みたいにやさしい子でした。

うさぎって、静かで繊細で、気まぐれ。
でもミルクは、私のそばに来ては、足元に丸くなって眠ったり、撫でてと頭を押しつけてきたり。
いつしか、帰宅後の「ただいま」は、ミルクに向けたものになっていました。
季節が何度もめぐり、ミルクは7歳になりました。
うさぎにしては高齢と言われる年齢でした。
それでも元気いっぱいで、「この子はまだまだ大丈夫」って、根拠のない自信を持っていたのに──
ある朝、いつもの場所で、ミルクは小さくなって動かなくなっていました。
信じられませんでした。
抱きしめても、もうぬくもりは戻らず、静かな寝顔がただ悲しくて。
「ごめんね」って、何度も言いました。
撫で足りなかったことも、もっと抱きしめなかったことも、全部悔やまれて仕方がありませんでした。
しばらくは、涙が止まらず、部屋の隅にぽつんと置いたケージを片付けることもできませんでした。
でも、ある晩、静かな部屋でふと目が覚めたときのこと。
ミルクがいつもしていた足音──トトトッと軽やかな音が、確かに聞こえた気がしたんです。
「空耳だよね」と思いながら目を閉じたそのとき、枕元にふわっとあのあたたかい気配がよみがえってきて。
涙がこぼれました。
でも、不思議と怖くなかった。むしろ、やさしい気持ちに包まれていたんです。
「会いにきてくれたんだね、ありがとう」
そうつぶやくと、すっとその気配は消えていきました。
それからです。少しずつ前を向けるようになったのは。
風の音や、陽だまりのぬくもりの中に、私はミルクを感じるようになりました。
今でも、夜にそっと「おかえり」って言ってしまいます。
姿は見えなくても、ミルクのぬくもりは、私の中にちゃんと残っています。


